キーンコーン、カーンコーン。
ようやく終業のチャイムが鳴った。
さてと、やっと放課後になったぜ。
ま、悲しいことに、放課後に俺が訪れる場所というのは部室以外の選択肢がない状態であるのだが。
今日も今日とて、退屈な授業が終わると部室を訪れていたりする。
コンコン。
「は〜い。」
毎度同じくノックをして、うかつで愛らしいあのお方のエンジェルボイスを堪能しつつ部室に入る。
・・・お、今日は何故か部室の付属物たる長門はいないようだ。
部屋にいるのはSOS団専属メイド、朝比奈さんのみ。
「今日は長門はどうしたんです?」
「クラスの用事があるそうで、今日はお休みだそうです。」
珍しいこともあるもんだな。あいつもまともな高校生ライフを送りはじめたってことか?
「うふふ。そうだと良いですね。」
しばらく待ってみたが、結局ハルヒも古泉も来る様子がない。
こりゃ今日は2人きりみたいだな。
その後はどうにもこうにも暇だった。
朝比奈さんはハルヒに玩具にされることのない数少ない安息の活動日を、お茶の整理に当てることにしたようだ。
ああ、オセロの相手すらいなくなってしまった。
たまには本でも読んでみようかと本棚を漁ってみたが、長門と俺では読書レベルに天と地程も差があるようだ。
タイトルの意味すらわかりそうな本がない。
暇だ。
仕方がないのでパソコンに向かいつつ、ぼーっとすることと決め込んだ。
たまにはこういうのも悪くないだろう。
目を向けてみると、朝比奈さんが一生懸命にお茶っ葉と格闘しているのが見える。
なんとなく、悪戯心が芽生えてきた。
いかん、ハルヒに毒されてきたかもしれんな。
しかし一度思いついたら、気になって仕方ない。
・・・一度試してみるとするか。
「みくるちゃん、お茶入れてくれますか?」
「はい!・・・は?あ、え? ほわわわわわ!」
ガッシャーン!
見事なまでにぶちまけられるお茶っ葉たち。
幸いなことにテーブルの上にこぼしただけであるので、使えなくなることはないだろう。
おろおろしている朝比奈さんに代わって片付けてあげるとする。
「な、なんですか〜。急に名前で呼ぶなんて。」
「いや、最初会ったときに朝比奈さんこうおっしゃったじゃないですか。
『どうぞ、みくるちゃんとお呼びください』
って。」
「でもでも、いきなり不意打ちはズルイですよ〜!」
「いえいえ、ほんとすみませんでした。」
にやけた顔で謝ってもなんの価値もないだろうが、とりあえず謝っておくこととする。
俺だっていつもハルヒとかにやりこめられてばかりだしな。少しは違った立場を味わってみたかったのだ。
朝比奈さんが自分でそうおっしゃっていたことは確かだしな。
予想通りの動揺っぷりにはもう感服するしかない。
それに、今回最大の収穫はこれに尽きるだろう。
お茶っ葉を元の缶に戻している朝比奈さんの、少し赤くなったそれはそれは魅力的な横顔に。
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