psychosis


今日の俺は不機嫌だった。

なんでかって?そりゃあれだ、ひがみってやつだ。あまり認めたくもないけどな。

俺は自分に嘘はつかないことにしてるんだ。

で、俺の不機嫌の元になっているバカは今、俺の横に座って国木田と得意気な顔でしゃべっているわけだが。



「いや〜。やっぱり俺の溢れる魅力ってやつ?彼女もそれに気づきなおしたってわけよ!」

「ふぅん?まぁ、また遊ばれて棄てられるようなことにならなければいいけどね。」

「な、何!?あれは彼女の一時の気の迷いってわけでだなぁ・・・」

そう、あの谷口が振られた彼女と縒りを戻したようなのだ。



学期末試験も近づいて気持ちも沈みがちな俺としては、そんな奴の戯言に耳を傾けている余裕はない、のだが・・・。


まぁ多少なりとも羨ましくないといえば嘘になるだろう。

せっかく同じ序列に戻ってきた友人がまた一歩先に進んだということは。



とにもかくにも、放課後になったというのに教室で馬鹿話をしていてもしょうがない。

今日は我らが団長様が直々にわたくしめに勉強を教えてくださることになってるんだ。

遅刻などしたら、テスト後にどんな罰ゲームが待っているかわかったものじゃない。


「SOS団から落第生を出すなんて不祥事は許さないんだからね!」


などと言い放った(なぜかやたら楽しそうだった)ハルヒが相当に張り切っていやがるからな。



さてはて、ダテ眼鏡に差し棒までワザワザ準備してくださったハルヒ教官の授業。

意外というか、ハルヒだから当然というべきなのか


かなり分かりやすいシロモノであった。1対1ってのはあるが、一般教師の授業より遥かにいい。

おかげで俺の成績もアップ・・・してくれるといいのだが。

なんとなく分かった気になっただけというパターンも多いからな。


「何言ってるの!ちゃんと理解するまでは家に帰さないからね。覚悟しておきなさいよ!」


と、相変わらずの鬼教官ぶりを発揮していらっしゃる。

俺は次の試験で谷口よりマシくらいの成績が取れれば十分なんだがな。


そんなこんなで、2時間くらいは個人レッスンが続いただろうか。

さしものハルヒ教官も少し疲れが出たか、休憩を挟んで最後に理解度テストをやってくれることとなった。




「そういえばさ。」

疲れた体を机にあずけて、ぐだっとしながら話し出してみる。

「何よ?」

「あのアホの谷口が前の彼女と縒りを戻したらしいぞ。」

「ふん。なに?そのミジンコ並にどうでもいい情報は?」

「いや、まぁそれだけなんだけどな。」

「へぇ?ひょっとしてひがみ?」

「・・・そんなわけないさ。」


相変わらず鋭いことだ。・・・今回はそうでもないか?


「なんとなく世の中を儚んでるだけさ。」

「それをひがみっていうんじゃない。」

少しは放っておいてほしいもんだ。勉強教えてもらっている身分ではそんな台詞も口からはでないが。



「・・・まぁあんたは心配することないわよ。」

「は?」

「あんたはあたしが一生退屈させないからね。その代わりキリキリ働いてもらうけど。」


・・・何言ってんだ?

ふと頭を上げてみると、窓から遠くを眺めているハルヒの横顔が見えた。



いつもの100ワットの笑顔や、ぶーたれている顔、退屈そうな顔のどれとも違う、少し大人びた表情に見えた。

不覚にも、ドキっとしてしまったことは否めない。

あのハルヒだと分かっていてすら、そう感じてしまうような。



・・・そんな綺麗な横顔だった。



その後のことはなんだかあんまり覚えていない。

理解度テストの成績はまぁまぁだったようだが、そんなこともどうでもよかった。

3人は俺がテストを解いている間に帰っちまったので、帰り道は2人だった。



珍しくハルヒも俺も、何もしゃべることなく坂道を下っていた。

別に気まずい沈黙ではなかったが、やっぱり少し気になることは確かだった。


「なぁ。」

「何よ?」

「さっきのあれだけどさ・・・」

「あ、あれは一時の気の迷いって奴よ!精神病にかかっちゃったんだわ。あんたが変なこというから・・・。」


意外なことに、みるみる赤くなって動揺するハルヒ。

自分がどんなこと言ってるのかもよく分かってないみたいだ。

ちと突いてみただけだったんだがな。俺としても予想外だ。

・・・さて、なんと言おうか。


「まぁさ、俺達にはSOS団がある。もちろんこれは永遠に不滅だろ?」

「も、もちろんよ!あたしが立ち上げた団なんだからね、そう簡単には終わらせないわよ。」

「ならば、俺は任期無限でハルヒの雑用係をやらんとな。これは他人じゃできないだろうし。」

「そうよ、あんたは下っ端とはいえ団員その1なんだからね。これは凄い名誉なのよ、あたしに感謝しなさい。」

「はいはい。それじゃこれからも一生よろしくお願いしますよ。」

「ほんとにキリキリ働いてもらうからね!覚悟しときなさいよ。」




やれやれ。おーい、俺の未来。

早くもお前には選択権がなくなっちまったようだぞ。

まぁいいさ、今のこんな状態にも俺は楽しめるようになってんだ。

あいつと一緒なら、この先もなんとかなるってもんだ。



さ、まずは期末テスト後にハルヒ教官に怒られないくらいには勉強しますか。

その後は、なるようになるのさ。



back