いつものように部室に行くと、いつものように長門がいた。
まったく代わり映えのない、いつもの日常である。
「しかし寒いな・・・」
イスに座って独り言を漏らす。
寒いといえば余計に寒くなる気もするが、それでも寒いといわざるを得ないのが不思議だ。
「放射冷却。」
「・・・何だって?」
「放射冷却。冬は乾いて晴れる日が多い。地表の熱が宇宙空間に放出されて、気温が低下する。」
まさか独り言に長門から返事があると思わなかった。
少し驚いたぞ。
「ところで、今日はわたし以外は来ないらしい。」
珍しいな、一人くらい休むことは良くあるが三人とも休むとは。
「帰って、図書館に行く。」
それなら一人で部室に居てもしょうがないな。俺も帰るか。
・・・帰ろうと思ったんだが、長門の視線が俺を固定する。
「俺も帰ろうかな。」
声に出していってみる。
そうすると、長門はとことことこちらに歩いてきて俺の制服の裾をつかんだ。
一緒に図書館に来いってことか?
聞いてみると、こくこくとうなずいた。
別に図書館なんて一緒に行っても何も変わらないと思ったが・・・。
早く帰ってもやることがあるわけじゃなし、ついていってやることにした。
授業が終わってからは時間が過ぎているし、部活帰りには早すぎる。
そんな中途半端な時間。
俺と長門は並んで帰途につく。
「そういや、ハルヒは何で休みなんだ?昼しゃべった時はそんなそぶりは全くなかったけど。」
「彼女は家の用事と言っていた。」
それなら先に分かってそうなものだけどな。
「それ以上の情報は得ていない。」
まぁいいか。たまの休みだ、何も考えずにのんびりいるのもいいだろう。
「彼女のことだけど。」
そう長門が切り出したのは、さっきの会話から5分ほど経った時だった。
彼女ってのが誰を指すのか、少し考えちまった。
「ここしばらくは精神的にとても安定している。」
古泉もそんなこと言ってたな。俺にはいつもとそれほど変わらないハルヒに見えるが。
「あなたのおかげ。」
俺も別に何も変わったことはしていないんだが。
「割れ鍋に綴じ蓋。」
「彼女が何の努力もなく、あなたとは良好な関係を築けている。」
仲がいいのは俺に限ったことじゃない。
SOS団のみんなとか、最近はクラスでもそこそこ仲いいヤツがいるみたいだし。
「それもあなたのおかげ。」
・・・持ち上げられているのか、適当なことを言われているのか分からなくなってくるな。
「とにかく、そういうこと。」
話はそこで途切れた。図書館に着いたからだ。
結局、そこからはいつものように長門は本を読み、俺はソファーで寝ていた。
閉館間際になってから、俺は長門を本棚の前から引っぺがして本を借りさせた。
全く、いつもどおり。図書館に来るといつもこうなる。
こんどこそ、本当に帰り道。
いつものように、無言で並んで歩く。
特に言葉ってものは必要が、ない。
そして、わかれ道。
「ありがとう。」
いや、図書館についていっただけだし、そんな感謝されるようなことじゃない。
「今日だけではない。」
「あなたにはいつも感謝している。」
・・・さすがにこう面と向かって言われると、少し照れくさい。
「それでは、また。」
「おう、じゃあな。」
いつもと変わらない、皆と別れた後の帰り道。
「あ、雪だ。」
寒いわけだ、もうそんな時期なのか。
雪なんて、寒くて鬱陶しいだけだが。
でもいつもと少しだけ違くなった、帰り道。
なんとなく、心が浮き立つような気分にもなる。
プルルルル
携帯が弾んだ音を奏でる。
「キョン!?外見てよ!雪よ、雪!」
もううっすらと、街が雪化粧をまとってきているな。
「明日は雪合戦をするわよ!今日の分までしっかり活動するからね!」
まったく、この寒いのに。
「明日はいつもの場所に8時に集合!雪が解ける前に遊び尽くすわよ!それじゃ!」
いつものように、ハルヒは喋るだけ喋ったら切ってしまった。
我が侭なところは半年以上たった今も、相変わらずだ。
「・・・手袋と帽子の準備が要るな。」
また、少し強く降ってきた雪の帰り道。
背中を丸めて、手はポケットにつっこんで歩き出す。
いつもよりちょっとだけ早足で。
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